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もりぐちジャーナル 平成23年12月号

 遺言書について、みなさんはどのようにお考えでしょうか?

 財産もないし遺言書なんて自分には関係ない、とお考えの方も多いと思います。

 しかしながら、財産の多寡にかかわらず、死後に残された子供たち相続人が遺産の分け方で争わないようにするために、遺言書を書かれる方も増えてきています。

  先日、このような事例がありました。


 

 A子さんは、友人と一緒に司法書士の無料相談会に来ていました。

 A子さんは、友人に頼まれて一緒に来ただけと言って、友人が遺言や相続の相談をしているのを横で聞いているだけでした。

 友人の相談が終わろうかという頃に、友人が突然に「ところで、A子さんも自宅の件で相談があるんです」と勝手に司法書士に相談を始めてしまいました。

 A子さんは、早くにご主人を亡くしており、末っ子のD子さん夫婦と一緒に住んでいました。A子さんの孫であるD子さんの子供は、生まれながらに片足に障害があり、また病弱な体質でした。A子さんは孫のなかでもこの孫を一番かわいがっており、大きくなっても住むところには困らないようにと自分の死後は自宅をこの孫にあげると決めていました。

 A子さんは友人にこの話をしていたので、友人が気を利かせて司法書士にこの件を相談しました。

 相談を受けた司法書士は、孫は相続人にはならないので、自宅不動産を孫に遺贈する内容の遺言書の作成を勧めました。

 ところが、A子さんは「遺言なんていうものはややこしいものだ、トラブルの原因になるものだ、そんなものは自分は嫌だ」と強く拒否をしました。

 A子さんは、D子さんには孫に自宅をあげると伝えており、既に自宅の権利証も娘のD子さんに預けているから大丈夫だ、残りの子供たちのB男さんとC子さんはいずれも独立しているから自宅の処分には関係ないと言ってきました。

 司法書士は、「A子さんの話には勘違いがありますよ」と相続と遺言について説明しようとしましたが、A子さんは、「ドラマやニュースを見ていても遺言書が原因で争いや殺人事件が起こっている、遺言書は嫌だ」と遺言への拒否反応を示すばかりで、司法書士の説明を聞こうとはせず、そのまま帰ってしまいました。

 

 その後しばらくして、A子さんは突然に倒れて、そのまま帰らぬ人となってしまいました。

 A子さんの葬儀・法要が終わったあとで、D子さんは兄弟のB男さんとC子さんに遺産分割の話を切り出しました。

 母のA子さんは孫であるD子さんの子供に自宅不動産を譲ると言っており権利証も預かっていると伝えると、B男さんもC子さんも「そんな話は母から一言も聞いていない、出鱈目を言うな!」と激しく怒り出しました。

 兄も姉もすんなりと了承してくれるだろうと思っていたD子さんにとって、B男さんとC子さんの反応は予想外であり、急いで司法書士へ相談に行きました。

 D子さんは母であるA子さんから自宅は孫にあげると聞いており、その証として権利証を預けると言われていたので、母の自宅不動産は子供の名義に書き換えることができると思い込んでいました。

 しかしながら、司法書士からの回答内容は、D子さんにとってまたしても予想外のものでした。

 A子さんの死亡に伴い、子供であるB男さん・C子さん・D子さんの3人が相続人になること、A子さんの自宅を含む財産は、法律の規定では子供3人が3分の1ずつの割合で相続するが、子供3人で遺産分割協議を行えば法律の規定とは異なる分け方をすることができること、D子さんの子供は相続人ではなく、自宅不動産を孫に相続させることはできないこと、権利証を預かっていても法的な効果はないとの説明でした。

 「A子さんが遺言書を作成していれば、話はかわってくるんですけどね」と言われて、D子さんは、友人に誘われて母が無料相談会に行っていたということを思い出しました。

 そのときは特に気にも留めずに聞き流していましたが、あのとき母に遺言書を書くように言っておけばこんなことにならなかったはずだ、と悔やんでも悔やみきれないD子さんでした。

 

 結局、A子さんの自宅不動産は売却して売却代金をB男さん・C子さん・D子さんの3人で3等分することになりました。ただし、D子さんはA子さんと同居して面倒をみていてくれたということで、A子さんが近所の信用金庫にもっていた預金はD子さんが相続することになりました。


 

 最近は、新聞やテレビなどで遺言や相続に関する特集が組まれたり、書店では遺言書の書き方の本が多く並ぶようになり、遺言や相続というものが以前よりは身近なものになってきたのではないかと思われます。

 しかしながら、この事例のように、遺言や相続について思い込みや勘違いをされている方も少なからずいらっしゃいます。

 権利証を持っていれば不動産を自由に処分できるというのは間違いですし、独立していった子供は相続には関係がないというのも間違いです。

 今回のA子さんも、自分の死後は自宅不動産を孫に渡したいという考えを持ち、D子さんに自分の考えを伝えて権利証を預けましたが、このようなことをしても現実には自宅不動産を孫に渡すことはできません。

 自分の死後に不動産を孫に渡したいのであれば、不動産を孫に遺贈するという遺言書を書いておかなければなりません。

 孫に遺贈するという遺言書を作成していたとしましても、子供(B男・C子・D子)には遺留分という権利がありますので、遺言書を書いておけば間違いなく孫が不動産を取得するとは断言できませんが、そもそも遺言書を作成していなければ孫が不動産を取得することはできません。

 

 遺言書とは、ご自身が亡くなられた後に、ご自身の財産の分け方などを書き記すものであり、残された家族などに対するご自身の最後のメッセージというべきものです。

 財産がないから関係ないというのではなく、最後のメッセージとして家族に伝えたいことがあれば遺言書にそれを書いておいてもいいのではないでしょうか。

 テレビや新聞の特集でもよく言われていることですが、遺言書の作成については、厳格な要件が定められており、不備があった場合には遺言書が無効になってしまうこともあります。

 遺言書の作成や相続手続きについてのご相談がありましたら、一度、当事務所の司法書士にまでご相談下さい。

 詳しくお話を伺いながら、お手伝いをさせていただきます。

 

 守口司法書士事務所 

  電話 06-6996-1223

 

2011-12-22 17:21:50 | RSS